建設CALS/EC時代の経審の役割
作成日 1999/5/27
改訂日 2001/1/2
Ver.1.5

建設cals/ecの社会では、品質・価格・納期(QCD)の面でライバル会社よりひいでた会社が生き残る社会でなければなりません。ところが現在はそのような事にはなっていません。それは建設業では「企業の信用」が重視されるからです。この状況を変えるには信用情報を客観的に提供する「経営事項審査」が重要な役割を持っています。
 
●建設会社の選別要因
 
建設業界で買い手は出来合いの商品を選ぶことはできません。買い手は、期待している通りの建造物ができるのか、後で問題がおこったとき迅速に対応してくれるのかなどの不安を持って建設会社を選択します。このため建設会社を選択するとき「信用」というものが他の産業にくらべ重視されることになります。建設会社の受注力は以下の式であらわせます。
 
建設会社の受注力=(品質+価格+納期)×信用(納期とは施工のスピード)
 
上記の式で、技術力がありB社の2倍の品質を提供できるA社と、信用がA社より2倍あるB社が競合した場合受注力を比較します。(価格・納期は同じ力を持っている)
A社の受注力=(品質2+価格1+納期1)×信用1=4
B社の受注力=(品質1+価格1+納期1)×信用2=6
 
この様になり技術力の低いB社はA社より1.5倍受注する力があることになります。この状況だと、技術力を高めて高品質を提供するより、信用を高める戦略を採った方が企業としては有利となります。
 
●信用とは
 
消費者や官公庁はいかにして建設会社の信用情報を得るのでしょうか。一般消費者は、マスコミ等から得る情報、営業マンから得る直接的な情報、地域での口コミでおこる「うわさ」などから信用情報を得ます。
 
では信用を高めるための建設会社の戦略はどのようなものが採れるでしょうか。マスコミなどへの対策としてパブリシティー戦略というものがあります。費用を払うCMであったり、出版社などへ「新工法の開発」情報などを無料で提供し掲載してもらいます。広告看板の設置、自社建造物に看板を設置、ホームページの作成などもこれに含まれます。この戦略の場合大きな企業が有利になります。しかし、マスコミが建設会社の能力を直接評価することは殆どありませんので消費者の関心もそれほど高くありません。
 
2つめは、「営業マンによる直接情報提供活動」です。この場合限定した地域で徹底した情報提供を行わなければ効果は薄くなります。いくら東京で積極的に営業活動をする大手の会社相手でも、地元で一番の工務店の方が知名度があり、良い「うわさ」があれば高い受注力を持てます。この様にその地域での知名度が重要になるため地域マーケットシェアーを重視する「地域ナンバーワン戦略」などが有効になります。
 
3つめの「うわさ」ですが、結局最終的には「うわさ」が受注への大きな影響力を持つケースが多くなります。信用は、信用する人からの「うわさ」から形成される事が多いためです。
 
●官公庁への信用情報
 
では官公庁の工事ではどのようにして建設会社の「信用」情報を得るのでしょうか
官公庁では、有名な大手の建設会社ばかりに施工を依頼することはできません。官公需法を根拠に一定量の工事は地元企業に施工させなければならないのです。数多くある地元建設会社をどうやって選別するかは非常に難しい問題なのです。建設工事の信用をすべて発注官公庁内ではかるには相当な技術力が必要になり人員面、教育費の面で難しい事です。そこで考えられるのは2つ。まず既にある地元の建設会社に選別してもらうことです。この役割を担っているのが「組合」であると考えられます。もう一つは信用する人から紹介してもらう事です。この役割を「政治家」が担っていると考えられます。この様な状況が政治力のある業者が強くなり、新規参入業者が適切に育たない、汚職の温床となりやすい業界体質へ結びついているのです。
 
 
●経営事項審査の役割
 
汚職体質と批判される建設業界の問題は、過度に信用を必要とする構造的な問題が根本的な原因と考えられます。「品質」「価格」「納期」で競争するマーケットメカニズム機能を発揮させるためには、発注者の不安を解消するだけの企業情報が市場に提供されなければなりません。政府は公共工事の執行をめぐる不祥事が続出した事から平成5年「公共工事に関する特別委員会」を設置し入札制度改革の一環として、官公庁工事を受注する建設会社は、毎年経営事項審査を行わなければならないとし、官公庁の建設会社の信用情報提供を経審を中心に考える大幅な改正を行いました。平成10年には完成工事高ウェイトを引き下げるなど評価方法の修正を行い、12月より経営事項審査の結果をすべて公表し民間にも利用できるようになりました。
 
この公表に関して勤労者退職金共済機構 六波羅昭氏は(財)建設業振興基金発行「建設業しんこう」9月号の中で次のように指摘しています。
 
建設市場に広く利用可能な形で、オーソライズされた企業審査情報が提供されることの意義は大きい。発注者・消費者にとっては特にメリットが大きいし、評価される企業にしても、市場の透明性が高まり実体のいい加減な企業が駆逐されるなどに結びつき、地道な企業努力が報われることになる。もしも施工能力の不要な企業が高い評価を得るようであれば、逆に、制度自体の存在意義が問われることにもなろう。このように、制度の仕組みと運用の善し悪しが評価されるということが、公表の多きな意義であることを強調したい。
 
経営事項審査は客観的に建設業者の信用情報を国から提供するものであり、公表することにより民間への利用を促し、従来より利用価値の高い仕組み作りへ迅速に改正していけることを指摘しています。民間にしても建設会社の評価の難しさに悩んでいるのです。
 
客観評価点とよばれるこの指標は(筆者注・経審)、評価の方法が分かり易いものの、企業の能力をこれだけで表現することは不可能であろう。発注者が主観的な評価を加味するのはよいとしても、主観的評価の項目と評価基準を明確に示すことは、発注の公平さを示す上で欠かせない。<
 
現在の経営事項審査は、施工能力を評価するものではありません。このため技術的な評価は別途各発注者が判断することになっています。技術的な評価についてもある程度評価基準を作り統一的な評価制度を作り経営事項審査と合わせて利用すれば、発注者の過度の信用不安を取り除くことになります。このためには元請型企業には財務指標の拡充、下請施工型企業には、技術力の評価方法の新設が必要になるでしょう。既に専門工事業者のステップアップ指標という自己評価システムが施行されつつあります。
 
●結び
 
 筆者は、実際に各社の経営事項審査に携わっているのでその限界や欠陥を多く感じます。しかしこの経営事項審査公表をきっかけにしてある程度の建設会社評価方法が確立できるよう官民協力して作り上げられれば、真に「品質」「価格」「納期」で競争する建設cals/ec時代の健全な建設業界実現へ、大きく踏み出すことになるだろうと考えています。今後の経営事項審査の発展が建設業界の発展に重要な意味を持つだろうと考えています。
 
 
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