「建設業および建設関連業における投資方法」
作成日2002年2月6日
改訂日
Ver.0.5
(誰でも使えるリアルオプション手法)

競争の激しくなる建設業界の中で利益を上げるためには「新しい事への挑戦」がかかせません。
しかし挑戦にはリスクが付き物です。
株式投資の世界では、リスクを減らす技術が沢山あります。ここではオプション理論を経営に用いるリアル・オプションについてわかりやすくするため小説風なシナリオを書きました。

登場人物
ブランドン社長
中堅建設会社の社長。2代目。優秀積極的な先代が一代で企業を大きくしたが、先代の急死により若くして経営者となった。先代に積極経営を教えられてきたが、バブル崩壊後保守的に先送りばかりしており社員に優柔不断とうわさされている。

コーネリアス営業部長
情報収集力に優れ、多くの企画を立案してきた。新しい物好きである。しかし失敗の案件も多い。

ジーラ経理部長
計算による論理的な判断を尊重する。眼鏡を掛けた計算マシーン。
バブル崩壊後数々の投資失敗に対し銀行などをかけずり回り会社を救ってきた。この苦労が一層保守的な意見を言わせるようになっている。

テーラー経営コンサルタント
若い経営コンサルタント。いつもブランドン社長の愚痴を聞いている。


建設会社の社長、営業部長、経理部長の会議


コーネリアス営業部長
「ある場所でテーマパークの開発計画の情報を入手しました。そこで近隣の土地を買収しテナントビルを建てる企画を立案しました。
このプロジェクトにより5億円のテナント収入が見込めます。まだこの開発計画は他の業者には知られていません。直ぐさま土地を買収しテナントビル建造に取りかかるべきです。資料を用意致しましたのでご覧下さい。」

投資総額   3億円 (土地買収費1億円 建築費2億円)
テナント収入(10年) 5億円

ブランドン社長
「なるほどこれはすごいプロジェクトだ、受注減に苦しむ我が社を救う画期的なプロジェクトかもしれない」

ジーラ経理部長「確かに投資額を効果が上回るプロジェクトです。しかしテーマパーク開発計画は本当に実行されるのですか?」

コーネリアス営業部長「今の時点で確定しているわけではないようですが、来年の1月に計画が決定されると聞いています。」

ジーラ経理部長「コーネリアス。どのぐらいの確率でテーマパークは出来るのです」

コーネリアス営業部長「ジーラ。そんな事言われてもわかるわけがないでしょう。テーマパーク建設が間違いなく行われるならうちだけじゃなく他の業者も情報入手しているはずです。今の段階なら私しかこの情報を持っていません。私が必死になってつかんだ情報なんですよ」

ジーラ経理部長「しかしうちの今の資金状況は折からの不況で火の車。3億円もの投資が失敗すれば大打撃を受けます。タダでさえ資金繰りに窮してるんです。間違いなく成功する投資しか実行できません」

ブランドン社長「困ったな。営業部長の言うように素早く投資しなければ地価が上がって3億円では済まなくなるだろう。人に先んじて行動しないと儲けられないのは商売の常識だ。しかし経理部長の言うことも一理あるなぁ。。。」

ジーラ経理部長「コーネリアスざっくり考えて何%位の確率でテーマパークは建設されそうですか?」

コーネリアス営業部長「そうだなぁ。俺の長年のカンから見て五分五分だなぁ」

ジーラ経理部長「五分五分と言うことは、5億円儲けられる確率が50%という事ですね。もしテーマパークが建たなければほとんどテナントは入らないでしょう。そうすると
5億×0.5+0×0.5=2.5億円
2.5億円の期待収益と計算できます。これでは3億円の投資額より少ないので投資はやめるべきと計算されます。それに考えてみてください3億円の投資するなら借り入れしないといけません。その金利分も利益を上げないといけないんですよ」

コーネリアス営業部長「むむむむ。。。。。」

ブランドン社長「うーん。あっさりと計算で駄目になってしまったなぁ。しかし5億円儲かるとか、50%の確率だとかなんでそんな未来の事がわかるんだ?意味のない数字で計算しても意味ないんじゃないか?」

ジーラ経理部長「それはそうですが、、、、それでは社長どうするのです?私には計算して駄目だとしか言いようがありません。」

コーネリアス営業部長「今までジーラの計算通りいった試しがないんじゃないか?今すぐやらないとチャンスはどんどんなくなりますよ」

ジーラ経理部長「よく言うよ。いままでコーネリアスが押し切った案件で損が出て私が銀行にかけずり回らなくちゃならなくなったのよ、解ってるの」

コーネリアス営業部長「なに!」

ブランドン社長「まぁ待て、二人とも会社の為を思って考えているんだ、喧嘩するな。とりあえずもう少し待ってまた考えよう」

コーネリアス営業部長「また先送りか、、社長はいつも先送りですね。はっきり言いますが優柔不断なんですよ。この間いったセミナーでも先送りは駄目だっていってたじゃないですか」

ブランドン社長「うーん、、、、、一体どうすればいいって言うんだ、、」

経営コンサルタントと社長

ブランドン社長「ある投資案件があるんだが経理部長が大反対で営業部長と喧嘩してるんだ、困ったなぁ。」

テーラー経営コンサルタント「へぇ。何故経理部長は反対するのです?」

ブランドン社長「案件は3億円の投資だが収益5億見込めるんだ、しかし50%の確率でと言うことだ。経理部長が言うに50%の確率で収益5億なら、それを考慮に入れると2.5億円の収入になると言うんだ。だから投資より回収が少ないので反対だとか」

経営コンサルタント「そうですか。経理部長の言うことは最もですね。」

ブランドン社長「しかしどうも腑に落ちない。商売はリスクに挑戦しないと儲からないだろ?」

テーラー経営コンサルタント「その通りですね」

ブランドン社長「ならどうすればいいんだ」

テーラー経営コンサルタント「でブランドンさんはどうしたのです?」

ブランドン社長「え。。とりあえずまた今度考えようって言ったんだ。先送りするなって怒られたけどね」

テーラー経営コンサルタント「そうですか。それは正しい選択ですね」

ブランドン社長「え?普通先送りは駄目だって言うんじゃないのか」

テーラー経営コンサルタント「最近の意思決定の考え方ではそうでもないですよ。むしろ先送りに価値があると考えてます」

テーラー社長「???」

テーラー経営コンサルタント「ただし、今度考えようと答えたという事は、やらないと答えたのと同じですね。また一から考えるわけですから」

ブランドン社長「ふーん。なんだか言っていることがよくわからん」


テーラー経営コンサルタント「それでは最近の株式投資の世界についてお話しします」


株式投資の意思決定

テーラー経営コンサルタント「株式投資は当然ですが、株を購入し、その時の値段より上昇すれば転売して儲けられます。いつでも誰でも購入できますし、いつでも誰でも売却できます。インターネットを使うと情報も容易手に入ります。完全な市場経済という訳ですね。

そういう世界で儲けようとすると、誰も買おうとしない安い株を見つけて出し抜かないと大儲けできない訳ですが、金融工学とよばれる学問の人が研究した結果、それは無理という結論のようです。」

ブランドン社長「そうなの?」

テーラー経営コンサルタント「まぁ、大儲けできる法則でも見つかれば、誰も働かなくなりますしね。」

ブランドン社長「そりゃそうだ」

テーラー経営コンサルタント「しかし金融業界の人達は株を買わないという訳にもいきません、リスクに挑戦しないといけないわけですね。そこでリスクを減らす方法について研究したようです。その中でオプションという取引形態が生まれました」

ブランドン社長「ストックオプションとかいう奴か?」

テーラー経営コンサルタント「そうですね。ストックオプションもその一種ですね。もっとも単純なものは、将来のある時一定の値段で株を買う権利を買うユーロピアン・コールオプションです」

ブランドン社長「??」

テーラー経営コンサルタント「例えば今100円の株を来年の1月に100円で買うという権利を取引をします。ただし嫌なら買わなくてもいいという事にしてもらいます。
そうすればもし来年株価が100円以上なら株を買う。100円以下なら株を買わない。という事が出来ますよね。」

ブランドン社長「それは良い考えだね。しかしそんないいとこ取りの権利売ってくれるの」

テーラー経営コンサルタント「もちろんタダでは売ってくれません。しかも売る側はもしかして下がるかもと思っていないと売りません。しかし多くの人が取り引きする株式の世界ではそう考える人もいるので取引が成立するわけです。」

ブランドン社長「なるほど」

テーラー経営コンサルタント「こんなコールオプションを買えば、株価が上がったときしか株を買わないので非常にリスクは減ります。株価が下がったら買わなければいいわけです。上がるか下がるかはっきりしない株を上がったと解った時点で買うという事ができるわけです。
問題は幾らでそのオプションを買うのかという事になります」

ブランドン社長「なるほど、そうだな」

テーラー経営コンサルタント「このオプション料をブラックショールズという二人の金融工学の博士が計算する式を発見しました。ノーベル賞を取ったブラックショールズ式とよばれる物です」

ブランドン社長「へぇ。ノーベル賞か。しかし今の話とうちの案件と何の関係があるんだ?」


テーラー経営コンサルタント「考えてみてください。今までの企業投資の意思決定するとき儲かるか儲からないか色々調べて「投資する」「投資しない」の2者択一の選択をしていました。しかし株式の場合「株を買う」「株を買わない」「オプションを買う」と3つの選択肢があるという事になります。

もし株が絶対上がると思えば「株を買う」下がると思えば「株を買わない」どうなるか解らないという場合は「オプションを買う」という選択肢も取れるわけです。

オプションを買うと言うことは、今は買わないが将来買う権利を買っているわけです。将来買うかも?という態度を取る訳ですね。」

ブランドン社長「先送りしたという事か」

テーラー経営コンサルタント「そうです。先送りしたわけです。企業の投資でも同じように考えられます。「儲かる」と判断できれば投資を行う。「儲からない」と判断できれば投資はしない。よくわからない場合はわかる時点まで先送りするという態度もとれるはずです。」

ブランドン社長「なるほど、テーマパーク開発が行われるのかどうか来年の1月までわからない。五分五分だ。もし確実に開発が行われると解った時に投資すれば必ず儲かる。先送りは価値のあることなんだね。

そうか俺の先送りは正しかったか、昔から良く先送りしてきたんだ。みんな駄目だといってたが他の経営者も皆そうしてるぞ。優柔不断っていいやがって。やっぱり俺は正しかったんだ」

テーラー経営コンサルタント「その通りです。しかしオプションを買ってませんよね。結局先送りにしてるのでなく投資しないと選択したのと同じです。」

ブランドン社長「なるほど。じゃ今回のプロジェクトのオプションを買おう。どこに売ってるんだ」

テーラー経営コンサルタント「投資案件は株式市場で取り引きしているわじゃないので何処にも売っていません。自分で何がオプションにあたるのか考えないといけません。
それに価値があると言うことはタダでは手に入りません。コールオプションもタダでは売ってませんから。一体オプションにあたる物が幾らなら買うべきかという事も計算しておかないといけません。
こういった考えをリアルオプションとよびます」

新しい意思決定

ブランドン社長「んーんそうか、今回の案件の場合何がオプションになるんだろう」

テーラー経営コンサルタント「私には建設投資の実情をよく解っていませんが、株のオプションというのは、買う権利(義務ではない)を買うという事になります。」

ブランドン社長「それはわかった。
株を買う権利を買うただし義務ではない。。。
テナントビル建設の権利を買うただし義務ではない。。。。。。。。。

そうか用地買収を先にしておくというのはオプションにあたりそうだな。用地を買っておいてもしテーマパーク開発が決定されればビル建設に着工、決定されなければビル建設はやめる。そんな感じか」

テーラー経営コンサルタント「そうですね。そんな感じで考えればいいかと思います。」

ブランドン社長「しかし用地買収に掛かる費用は多額だ。もしテーマパーク開発が行われなかったら、用地買収投資は失敗する」

テーラー経営コンサルタント「そうですね。用地買収はオプションだと考えると、妥当な価格で買わなければなりません。
株式のオプション価格の場合ブラックショールズ式を使えば計算できます。」

ブランドン社長「なるほどノーベル賞の式を使う訳か。どんな式だ?」

テーラー経営コンサルタント
http://www.geocities.co.jp/Technopolis/8931/blacks.png  

という式です」

ブランドン社長「なんて難しいんだ。こんな式解けるのか?」

テーラー経営コンサルタント「確かに難しい式です。エクセルなどを使えば式の難しさは関係なく解けますが、ブラックショールズ式が見つかった後もっと簡単なマルチンゲール関数という式でオプション価格が導き出されることが解っています。


マルチンゲール確率=(現在株価×利子率ー低株価の株式価値)
             ÷(高株価と低株価の株式価値の差)
オプション料=マルチンゲール確率×(高株価時の利益÷利子率)

この式に現在株価の所に原価3億円・将来の低株価・高株価に売上0円、5億円を代入すれば求まります。


ブランドン社長「これなら電卓で解けそうだ。早速計算しよう。利子率はとりあえず無視してみると、
((3億円ー0円)÷(5億円ー0円))×(5億円ー3億円)

で解けるな。1億2千万円か。そうすると土地1億円は安いぞ。おぉオプションになる土地買収はした方がいいことになる」

会社の会議室

ブランドン社長「今日集まってもらったのは、この間のテナントビル建設の話だ。今日は経営コンサルタントも交えて話したいことがあるんだ」

ジーラ経理部長「あ。その件ですか。丁度お話しようと思っていたところだったのです。実は新しい情報を仕入れまして、それを考慮すると先日の計算結果変わってきたのです。」

ブランドン社長「ほう。どう言う事だ」

コーネリアス営業部長「実はテーマパークの近隣に他の会社がビル建設を計画を検討しているそうです。
あの会社の情報収集力はかなりです。
これでテーマパーク建設の確率はかなり増えました。」

ジーラ経理部長「先日テーマパーク建設の確率を50%としたので反対しましたが、式を反転させると、60%以上の確率ならプロジェクトを開始すべきと計算できます。
5億円×必要確率+0×(1−必要確率)=3億円 
必要確率=60%

コーネリアスと話していたのですが、他社の計画を考えると60%以上の確率でテーマパーク建設は行われるのではないでしょうか。それなら計画を進めるべきだと思うのです」

ブランドン社長「そうか、なるほど。ではテーラー君。計画は進めて良いと考えていいのだろうか」

テーラー経営コンサルタント「そうですね。それでは少し実験してみましょう。ここに3つのトランプカードがあります。トランプは黒2枚赤1枚入れています。黒が出る確率は66%ですね。黒が出れば成功、赤が出れば失敗。今回の投資案件のようです。
ではコーネリアス営業部長これを何回かめくってみてください」

コーネリアス営業部長「赤、黒、赤、赤、黒」

経営コンサルタント「はいやめてください。ジーラ部長黒の出た枚数は何回ですか?」

ジーラ経理部長「2枚ですね」

テーラー経営コンサルタント「と言うことは5回に2回つまり成功する確率は40%しかありませんね」

ジーラ経理部長「いやいや、それはたまたまです。何度も繰り返せば66%黒が出るはずです。3枚のうち2枚は黒なのですから。当たり前じゃないですか」

テーラー経営コンサルタント「そうですね。その通りです。ではコーネリアス部長今回のプロジェクトは何回するのです?」

コーネリアス営業部長「何回もするほどチャンスはないと思いますが、、、、」

ジーラ経理部長「うちには何度も挑戦するような資金力はありません。
あ。そうか確率60%といってもチャンスが1回か2回の我々のような中小企業ではあまり意味がないわけか」

テーラー経営コンサルタント「そうです。物事は確率的にしか捉えられない複雑な状態です。何回もチャンスがあれば大数の法則によって確率に近くなります。
しかし現実にはそんなに沢山のチャンスはないのです。」

ジーラ経理部長「そうか。なるほどではどうしたらいいのです?」

ブランドン社長「少し新しい考え方を教えてもらって考えてみたんだ。ちょっと聞いてもらえるか」


ブランドン社長「結論から言うが、今回のプロジェクトとりあえず用地取得を先行させる。そして開発が行われるかどうか解った段階で建設に着工する。
君らは先送りは駄目だと言っていたが初めジーラが言っていたようにどうなるのか解らない物に投資は出来ない。
しかしコーネリアスの言うようにチャンスをミスミス逃すのももったいない。
そこで全部の投資は確実になってから行う事にし、部分的に投資する事にした。土地の値段はリスクに対して妥当な値段なんだ」

コーネリアス営業部長「そうか。考えてみれば一度に全部やるかやらないか決めなくてもいいんだ」

ジーラ経理部長「なるほど、そうかそんな手もあったか」

ブランドン社長「ジーラ。君はこれからテーラー君から先送投資の値段計算オプション理論を学んでくれ。利子率を含めた計算をして欲しい。今までのような計算方法でなく準備投資にいくら使えるのか考えて欲しいんだ。
コーネリアス。君はこれからは投資案件を一度に全部考えるのでなく、判断のチャンスが2度、3度ないか段階的な方法について考えて欲しいんだ。先送りが必ずしも悪いことではないんだ」

ジーラ経理部長「先送りの値段計算ですか、土地の値段が妥当かどうか計算する方法があるのですね。解りました。勉強してみます。しかし開発の成功確率を考えなくていいとは思えないのですが」

テーラー経営コンサルタント「また後日詳しく説明しますが、期待収益率はオプション価格に関係しません。またじっくり勉強しましょう。このリアルオプション理論の研究は始まったばかりです」

テーラー社長「今までの投資案件をもう一度考えてみよう。俺は今まで皆の考えてくれた色々な案件を先送りしてきた。商売の基本はリクスに挑戦することなのは解っていたのにだ。

先日コーネリアスから話を聞いたIT投資、ISO14000への投資。これらの案件は先送りしたが、結局何も行われていない。
これは先送りではなく投資しないと決断したのと変わらない。

バブル時の経験からジーラの言うように何でもかんでも投資すると言うわけにはいかない。

しかし我が社はバブル移行新しいことに挑戦していなかったから業績が下がっているんだ。リスクに挑戦しないと儲からないのは商売の基本だ。

これからは新しい考え方でリスクを減らし、もう一度リスクに挑戦する先代の様な経営をしてみようじゃないか」



ご感想を是非ください。作成: 西原隆

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