建設業の品質
作成日 2000/1/24
改訂日 2000/12/24
Ver.1.5

日本製造業の品質

日本の製造業は世界的に高い品質を持っていると言われています。車や家電は研究開発、マーケティングといった部分はアメリカに劣っているが品質面では圧倒していると言ったことが昔から言われています。

この高品質を作った経営手法は「カイゼン」「QCサークル」と言った下からの改善運動でした。日々ラインに従事する労働者がグループごとに問題点を洗い出して高品質、低コストを生み出す方法を考えます。
製造業は部品ごとに下請多重構造になっています。しかしトヨタなどは「カンバン方式」と呼ばれる在庫圧縮方法を生みだし、系列部品メーカーを統制した生産体制を作り出しました。品質に関する要求もただ要求するだけでなく、機械化の指導、経営体制の指導をメーカーが提案していくような形が多く行われています。資本出資、役員の出向など関係は緊密です。

この様な経営形態は日本式経営として諸外国でも研究が進められました。特にQCサークルは欧米でも行われましたが日本ほどの効果は得られなかったそうです。下からのカイゼンは欧米ではおこりにくいそうです。

僕は、この事は日本式経営手法でもっとも挙げられる「終身雇用」と大きく関係しているのではないかと思っています。日本では雇用されている人はもちろん、協力部品会社でさえ「切られる」ことはあまりありませんでした。
この事は会社への帰属意識を非常に高めることになります。会社の製造する車なり家電が売れればそこにかかわる人は潤います。売れなければそこにかかわる人皆が苦しみます。よって会社(最終商品)のために一致団結して努力しようという社風が生まれることになります。

この間読んだ弁当製造会社のQCサークルの話では、パートのおばちゃん達がどのように作っていけばより効率的に作れるか考えた話が載っていました。「一連流し」という手法の話でしたが、おばちゃん達が何故一生懸命効率化を考えたのかが重要なことだと思います。おばちゃん達はパートですのでいつ首になっても文句は言えないのですが、日本式雇用形態だとおばちゃん達ですら何年もそこで働くような雰囲気を作り出しているのです。
この話はかなり古い本で古き良き日本的経営の一端だと思います。

いま日本の製造業は大きく変わろうとしています。系列の見直し、終身雇用の見直しなどがよく言われています。また品質、低コストといった部分ではなく従来弱かった、研究開発、マーケティングといったホワイトカラーの生産性を高める手法について話題になっています。
しかし僕のかかわっている建設業の改革の話とこれらの話がリンクしているのか最近疑問に思ってきました。世界一高品質と言われる製造業並に建設業も高品質なのかちょっと疑問に思うのです。

●建設業の品質

製造業が日本式経営「年功序列型賃金制度」「緊密な系列関係」がQCサークル、カイゼン運動のような下からの改善につながり高品質・低価格を生み出したのではという仮説について書きました。

では建設業を賃金体系から見てみるとどうでしょうか。建設業の場合も一つ一つの会社では年功序列型の賃金になっています。しかし一つの建造物を中心に考えると年功序列型賃金にはなっていません。建造物を作る時施工する人々は工事を請け負ったゼネコンに勤務しているわけでなく、サブコンに勤務している人、一人親方と呼ばれる職人、外注労務と呼ばれる形態だったりします。

労働省の調査によると電気工15,106円、とび工15,320円、大工15,320円など職種別の日当が書かれています。
トンネル特殊工 25,500円 トンネル作業員円 19,100 トンネル世話役 28,700円
沖縄地区労務単価によるとトンネル工でも職務難易度で日当が違ってきます。年齢は関係ありません。

給与体系は一般的に「職能給」と「職務給」の2つに分けられています。職務給とは、欧米で一般的に利用されている給与算出方法で、職務の難易度に応じて単価を設定し時間などを掛けることにより給与を算出します。
一方「職能給」はその人のもつ総合的な能力によって給与を決定する方法です。日本で一般的に使われているのは職能給。従業員の総合的な能力を人事考課によって把握し賃金テーブルに乗せて給与を決定するのですが、なかなか能力を把握するのは難しく属人的な能力(学歴、年齢、勤務年数)により決定する事になってしまっています。これが年功序列になる原因です。

aBUSINESS研究所「労務管理の基本」
http://home4.highway.ne.jp/nisi/kaisetu/roumu/roumukiso.htm

「職務給」「職能給」それぞれ長所短所あるのですが、今ビジネス雑誌、労務の専門家の間では日本の給与体系は職務給的な方向へ向かうべきだというのが一般的です。職務給を取ると中途採用が容易に出来るため雇用の流動性が高まりますし、その人がする仕事の難易度で給与を決めるので年功序列にならない公平性と競争性が持ち込まれるというわけです。アメリカ的経営です。

こんな話を聞いたことあります。職能資格給を建設業に導入するのは良いことですかと聞いたところ、「建設業の賃金体系は、むしろ今の職能資格給が目指す給与体系よりすぐれており仕事の能力によって給与が決定される部分が多い、更に外注労務が一般的なので景気によって給与を変動させることも容易だ。理想の賃金体系に近い」

この話を聞いてから建設業は普通の日本的経営を行っていない。むしろ職務給体系に近い、これはアメリカ的経営に近いのではと考えるようになりました。
しかし今のアメリカのようにITを駆使して情報を共有する、トップダウンで経営戦略を細かく示すといった事もいままでは行われていません。
下からのカイゼン運動も起こらない、上からの経営戦略提示も行われない、僕は今の建設業の状況は70年代のアメリカの状況に陥っているのではないかと考えています。

●品質を上げるためどうすればいいのか


今週書いた[建設業の品質]をまとめると
・「製造業がQCサークル、カイゼン運動のような下からの改善がおこり、高品質・低価格を生み出したのは、「年功序列型賃金制度」「緊密な系列関係」により会社への帰属意識が高かったからではないか」

・「建設業は、必ずしも日本的雇用慣行を取っているとはいえず職務給的給与、外注労務といった形態が大きな割合を占めている」

という話でした。建設業は、会社(最終製品)に対する帰属意識が低いため日本の製造業ほどの低価格、高品質にならなかったのではないか。という仮説です。大手は協力会など系列関係はありますが製造業ほどの指導が出来ていない。中小レベルが元請になっているため協力会すら結成できていないという状況です。

ではどうすればよいでしょう企業形態を考えると3つの方向が考えられます。
1.構造物にかかわる人ほとんどを雇用する。
2.系列関係を選別し、緊密な関係を築き徹底指導・統制を行う
3.雇用、系列関係は作らず出来るだけ小さな柔軟な企業を目指す

今のアメリカの産業、日本の建設業は3に近いでしょうか。

(1)は人事異動などにより長期的、計画的に人材を育成する事が重要になります。(CDP)そうすると、長期的な人事異動、教育によって多様な人材を育てられます。長期戦略を立てられ、意志疎通が容易になり、情報共有が可能になります。現場をしった管理者を作れるわけです。
短所は、固定費が増大する、安定した売上高が必要、スペシャリストが育たない、官僚的になる、環境変化に対応しにくいなどでしょう。

(2)のケースは日本の製造業者やデルコンピュータなどが行っている形態です。トータルな在庫管理、品質管理を行うサプライチェーンマネジメントを徹底できれば、サプライチェーン全体で無駄なとこを発見改善できる事でしょう。
短所は、競争が少なくなる。新しい取り組みがおこりにくい等でしょう。

(3)のケースはGE、GMなどアメリカの企業で多く取られているケースです。過去の取引にこだわらず出来るだけ幅広く公平に協力企業から選び出す方法です。品質・価格の戦略を細かいところまで作成、提示しそれに見合う業者を選ぶ能力があれば、固定費が削減できます。協力企業間競争も激しくなり、新技術を発生、導入しやすくなり、環境変化に迅速に対応できる事でしょう。
短所は、短期的な視点が多くなり長い目で見た品質確保が難しくなります。会社間で重複したマネジメントコストが多額に発生するなどがあります。

(1)は建設業の需要安定性からいって難しいのですが(2),(3)のどちらかを選ぶとしてもそれぞれ長短がありどちらが正しいとは言い切れません。
しかし従来の建設業の場合は、(2)、(3)いずれをとっても問題があります。受注を予測できない、各構造物が均一でないという問題があり、トップからトータルな戦略を提示・指導することがかなり難しくなります。よって現場担当者の能力に依存することになり、(2)の長所「サプライチェーン全体で無駄なとこを発見改善できる」(3)の長所「新技術を発生、導入しやすくなり、環境変化に迅速に対応できる」いずれも出来にくい状況です。従来の方法ではどうしようもない問題です。


●日本の建設業は、日本の製造業より価格低下がおこっていないと統計ではでています。産業というものは、顧客は更なる低価格を求め、コストは物価上昇とともの増えていきます。この状況で生き残るすべは工夫。つまり技術革新です。製造業ではこの流れがおこり低価格・高品質がおこりました。
10年前のパソコン・家電などは今の方が性能が高くて安いのが当たり前なのです。
しかし建設業はどうどうと「やすかろう悪かろう」と言うことで、物価が上がったので値上げを要求し続けそれが通ってきました。安い施工は品質が悪いと決めつけます。これは上記で示したような構造的、経営的問題があり解決される事はないという前提があったのではないでしょうか。


●僕は基本的に「誰かがさぼっているから物事が悪くなっている」とは考えていません。皆ある程度がんばっているがどうしょうもない問題があるので解決できないのではと考えるようにしています。

アメリカの産業は(3)の形態が多いようですが、70年代以降日本に負け苦しんだ後、ITを使って”どうしようもない問題”を解決する事に挑戦しました、メッセージングシステム・ナレッジマネジメント技術を使って元々レベルの高かったトップの戦略を末端まで共有させたのです。

僕は日本の文化からかんがえ(2)がいいのではと考えますが、いずれの方向へ進むのかは経営者が決めることです。従来あった問題点は、やっと今ITの登場で解決可能な環境になってきました。今こそ構造改革、経営革新を行い技術革新の起こりやすい環境へ動いていくときではないでしょうか。安くていい物は必ず出来るはずです。
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